「ガイドのいない夜」

1992/11/20発売 フォーライフ FLCF-30195COMPILATION ALBUM
  1. つめたい部屋の世界地図
  2. 東へ西へ
  3. 海へ来なさい
  4. カナリア
  5. 白い一日
  6. 結詞
  7. Just Fit
  8. 愛の装備
  9. 夏まつり
  10. 眠りにさそわれ
  11. とまどうペリカン

「ガイドのいない夜」

「ガイドのいない夜」っていうタイトルはね、まあ無意識につけたものですけど、潜在的に僕個人が二十世紀を総括してるんじゃないかって、つけた後から判明した感じもするんです。まあよく言われることだけど、娯楽も趣味もどんどん最近は細分化している。昔なら、みんなで驚いたビートルズの登場、三島由紀夫の事件とか、そういうのがあったけど、今は指針ていうものがない。ソ連の崩壊とともに、世の中の指針もなくなった。資本主義でも共産主義でも、保守でも革新でも、全てのことに指針がない。親は子供を、どう育てていいのかわからない。音楽家も、どういう音楽やればいいのかわからない。つまり、そういう状態は“ガイド”がいない状態だし、世紀末には起こりやすいことなんです。ある人と話していたら「いいタイミングで“振り返り”ましたね」って言われた。1999年になったら、みんな二十世紀を振り返る。テレビ番組は、そんなのばっかりになる。僕はこのアルバムで、ひとあし先に二十世紀を振り返ったことになるわけです。実はオリジナル・アルバムをそろそろ作ろうって思ってたんですよ。その前に、これをちょっと片づけて、その後でオリジナルやろうってことで始めたんだけど、実際やってみると炊事洗濯まるで駄目、みたいな、大変なレコーディングになった。選曲については、ここでまた「最後のニュース」をやるのもなんだし、できるだけ古い曲がいいだろう、というのはありましたね。でも古い曲の中でも「心もよう」とか「傘がない」っていうのは、僕にとってもファンの人達にとっても“聖域”だし、そこに触れるのはさけようと思った。井上陽水という小さな四角形があったとして、その周りにファンやスタッフのもうひとつの四角形がある。ごくごく狭い場所だろうけど、その中にも触れてはならない“聖域”があるからね。結局、百何曲かある僕の曲から、どれを収録したかというと、基本的に今の僕が歌えそうなものがいいってことになった。アレンジャーの佐藤準とかに手伝ってもらったんですけど、彼の方から「この曲を」というのもあったし。レコーディングは二十二〜二十三曲やったのかな?その中の十一曲を収録してますが、当然洩れた曲がたくさんあるわけでね、それをテープにして『メイドのいない夜』と銘打って、保管してあるんです。裏テープとしてね。


「つめたい部屋の世界地図」

この曲を取り上げたのは、以前金子章平が「この曲はいい」って言ってくれてて、それを僕が覚えてたからです。僕の曲は百何曲もあるわけだし、こういうときにどれをやるかで悩む訳だけど、できるだけ古い曲でしかも今の僕が歌えそうなもの、というのはありました。だって「最後のニュース」をまたすぐここで歌い直してもねぇ。この曲はワルツで、“♪はぁ〜るかぁな〜 はぁ〜るかぁ〜な”って歌い出しの部分とか、僕には童謡のように聞こえる。そういや昔こういうの聴いたことあるね、みたいな.....。それで、曲のアレンジの方は萩田光男さんにお願いしました。佐藤準のプランです。最初はドラムとベースのリズムとか、あと弦とかでやってたんですけど、“何かもっと違う形にならないかなぁ?”って途中でドラムとベースを取っちゃった。ギターは松原正樹さんにお願いして弾いてもらった。萩田さんの弦の感じがすごく素晴らしいっていう周りの評判です。


「東へ西へ」

本木さんが最近コマーシャルで歌ってくださってるし、この曲を収録するのがいいんじゃないかって、僕は思ったんです。ところがスタッフが、「そういう“今だれそれがやってる”みたいな安易な目先の利潤を追い掛けちゃダメだ」という話になって、「あ、そうか」って、「その通り」だって思って、取ってあったデモ・テープも放っておいた。ところが別のスタッフの中に、この曲に特別の思いがある人がいたみたいで、僕の知らない間にいろいろやってくれた。ある日それを聞かせてもらったら、「あ、いいじゃない!」ということで、急に収録することになった経緯があります。子供のコーラスが入ってるんですよ。つまりこれが僕にとっては救いになるんです。この曲はテレビで流れてポピュラーで、「みなさんの歌です」的なとこがある。その証明、印として、子供のコーラスを入れたんです。まさか自分の録音物に子供の声を入れるとは思わなかったけど、このことでこの曲は「僕の手から離れた」みたいな感じになった。


「海へ来なさい」

これは瀬尾一三さんという人のアレンジです。この曲を彼にお願いすることを考えたのは、これも佐藤準だった。瀬尾さんとお会いししたことはどっかであったと思うけど、音楽を一緒にやるのは初めて。お互い、長い間、同じフィールドにいたのに、初めてだった。すごく上手い仕上がりになりました。打ち合わせは夏だったけど、彼は和服着てきて、今、和服着て出歩くというのは特別なことですけど、多くの人が、「あ、瀬尾さん凄いですねぇ、和服ですか!」なんつったけれど、僕は口が裂けてもそういうことを言うのはよそうって。何事もないような顔をするのに苦労しましたけど.....。結局僕が思ったのは、瀬尾さんは和服着て出てきた、多くの人から「和服ですか!」ってリアクションは受けてるだろうって思ったんです。僕ぐらいは、そういう煩わしいことを言うのやめようと思った。そう。その事がすごく記憶に残ってるね。これは子供に向かって歌っているような意味合いの曲なんです。この曲を子供が生まれてから作ったのだとしたら、すごく常識的だし、きっとこれは、子供が生まれる前に子供がいるような顔をして作った曲なんだと思いこんでいたんです。ところがウチのカミサンに確かめたところ、「これは子供が生まれて作った歌だ」って言われてね。“太陽に負けない肌を持ちなさい”とか、ああだこうだうるさいこと言ってる歌ですけど、もし僕が子供だったら、親父がこんな歌残してるのは、なんかいやな感じがするというか、子供も大変だろうな、と思いますね。こういうのがいきなりラジオから流れてきたら、彼らは本当に迷惑だろうなと、時々思うことがあります。もっと子供としては、親に空気みたいな存在であって欲しいと思うだろうし、特別立派でなく、特別ひどくもなく、あんまり子供と関係ない、みたいなのがベストだと思うけど。彼らには、本当に悪いことをした。ここでこのことをひとつの文章として記録して、彼らに謝るしかない。


「カナリア」

今まで収録されているこの曲は、ギターのアルペジオでセンチメンタルにストイックにやってるんですけど、今回のリメイクでは、「ひとつ静かなやつを大騒ぎしてやってみよう」って思って、ドラムとかベースが入って大騒ぎしてます。大騒ぎして、この曲の悲しさがより深まったらいいな、とも思ってた。コーラスアレンジも自分でやって、上手くいった方の曲だと思います。いまこの『ガイドのいない夜』からシングルにするとしたら、この「カナリア」がいいんじゃないかな。でも、これはレコーディングの最後の最後まで歌が取れなかった曲だね。最終日の最後まで残った二曲のうちのひとつ。テイク数で四つか五つ歌って、「テイク1の頭はいい」とか「でもその先の部分はテイク2の方がいいんじゃないか」とか、そういう歌選びが真面目に出来た曲だった。レコーディングの最後の最後の日の前半戦にやった、その時の熱意みたいなものがありますね。


「白い一日」

レコーディングを手伝ってくれた佐藤準も僕も、わりあい飽きっぽい方だから、「なんか感じが違うねえ」みたいな理由で、いったん始めた曲を途中でやめてしまうことが多かったんです。でも、この曲だけは奇跡的に、最後まで二人とも飽きなかった。レコーディングの初期に録音したんですけど、「あ、いいのが録れたね」、なんつって話してて、よく聴いてましたけど。これはやっぱり小椋佳さんの詞ですから、どういう風に聞こえるのかな、というのがちょっと気になっていました。自分の詞だったらどういう風に聞こえようと覚悟は出来てますから。簡単にいうと、すごくセンチメンタルな曲だし、スウィートっていえばスウィートだし。これは“一本歌”というヤツでね。頭からお尻まで。


「結詞」

結局、この曲が今回のアルバムの制作のスタートになってます。ある日、広告代理店から「テレビのコマーシャル・ソングを作らないか」という話があって、「とてもじゃないけど、曲を作るなんて途方もないことで、ちょっと用意がありません」と言ったならば、先方も熱心な方で、「じゃあ、すでに録音されている曲を使うのはどうでしょう?」。「それは願ってもないことです。よろしくお願いします」って言ったら、彼らがこの「結詞」をピックアップしてきた。そうしたら、スタッフがこういうんです。「『クラムチャウダー』というライブ・アルバムの中で歌っている“結詞”が、なかなかいい出来だ」、なんてね。もともと僕は自分のライブ・アルバムとかヴィデオとかは、いっさい聴いたり観たりしない方なんだけど、騙されたと思ってそのライヴを聴いてみた。そうしたら、オリジナルより良かった。ところが、不思議なことに、コマーシャルの画面と音が合わないんです。やはり映像の世界は奥が深いよね。僕はいいクオリティの音楽ならどんな画にも合うと思ってたから。それなら、最初のオリジナルのを使おうかってことにもなったけど、もう『クラムチャウダー』の具合がいい方を聴いた後だったから、「それなら曲のテンポを少しあげて、新しく録音し直しましょう」って言った。それがそもそも、今回のアルバムのキッカケになっちゃったわけです。


「Just Fit」

一番声を張り上げる出鱈目な曲だけど、さっきの「カナリア」の後に歌った曲です。レコーディングの最後の日。まだその前半は真面目に作業してて、それが「カナリア」だったけど、後半になると徹夜も二晩続いてて、“徹夜ハイ”みたいな状態。その中で歌をセレクトして、なんの確信もないままにトラック・ダウンしたんです。途中でシャウトというか、狂ったような声とか出していて、それが自分では個人的に気に入ってる。ライヴの時ならいいけど、スタジオというクールな中で叫んだりするのは、普通考えにくいし難しいだろうなと思ったけど、最終日の夜ということもあって、「もうどうでもいいか」とかってことが手伝って、なんとか形になりました。この曲でギターを弾いてくれたのは、さっきも出てきた長田君。最終日に彼に来てもらってオーヴァーダビングしてもらったけど、彼の歌は歌い手のお尻を押して「しっかり歌わんかぁ!」的なとこがあって、ずいぶん助かりましたよ。でも、この「Just Fit」はアルバムからはずす積もりだった。スタッフの一人がそのことを聞いて、「えっ!外すんですかぁ」って。その切ない声が耳に残って、「じゃあなんとか入れる方向で.....」みたいになった曲。本来なら、冒頭で話した『メイドのいない夜』という裏テープの方に入ってた曲です。


「愛の装備」

今年のコンサートでずいぶんたくさんのミュージシャンと親しくやってて、それはキーボードの佐藤準にドラムの山木秀夫、ギターの今剛、シンセサイザーの川島BANANA、べーすの美久月千春といった人達だけど、どういう曲を録音しようかって思って、あっさり決まった曲だった。佐藤準が最初にアレンジしてくれたのがこの曲だったと思う。オリジナルの方を聞いて思ったのは、“もうちょっと柔らかくないといけなかった曲だなぁ”ってことで、今回のはずいぶん柔らかくなってスピードも増してると思いますよ。この曲には吉田美奈子さんがコーラスで参加してくれてて、ずいぶん感じが良くなってるし、佐藤準のピアノも聴きどころです。山本のドラムもスピードがあっていいしね。


「夏まつり」

この曲を収録しようと言い出したのは佐藤準で、僕はちょっと考えてなかった。彼はほとんど僕の情報がなくて、今回ほとんど白紙の状態でいろいろな曲を聞いてくれたんですよ。「あ、これいいじゃないか」とか、ずいぶん言ってくれて助かった。シンセサイザーのアルペジオっぽくやってて、その新しいシンセサイザーの音っていうのが気に入ってね、「じゃあ収録しよう」ということになった。それにこの歌の最初には“十年はひと昔”ってフレーズが出てくるので、今回のアルバムのある意味じゃある効果を出すのかな、とも思ったしね。一時はこの曲をアルバムの頭に置いて“♪十年はひとむ〜かぁ〜しぃ”って幕開けするのはどうかなと思ったくらいだった。それか、最後に持ってくる、とかね。でも、最終的にはこの位置になった。選曲や曲順には、いろいろなプランがあったんですよ。最終的には、僕が十曲選んできて、その中には「夏まつり」は入ってなくて、でもやっぱり十より十一の方が多少はいいかなぁという、それで入れたんですけど。


「眠りにさそわれ」

レコーディングの前半戦は、けっこうデリケートにね、マイナー調の曲の細かい作業をやってたんですよ。「白い一日」とか、アルバムには入らなかったけど「いつのまにか少女は」とかね。そういうバラード物の細かい作業とかやってた。でも、ミュージシャンにとってみたら、メジャーの気持ちがパッと晴れるような曲の方がやりやすいんだと思うんです。「こういう感じだったら、譜面なくても大丈夫!」みたいなやつの方がね。なんでこの曲をやったのかっていうと、きっとそんな意味で気分転換に始めた気がします。ちょっとここでブレイクとろう、みたいな気で。でもたまたまその時、いい歌が録れたからこうして最後まで残った。いろいろなテイクを録っていったんです。その中からこのテイクを選んだのは佐藤準。もともとこの曲の印象としては、もっと静かでテンポも柔らかいものを想像しがちだけど、その中でも一番強いバージョンが選ばれた。最初僕は、「もうちょっと優しいやつの方がいいんじゃない?」とか言ったけど、だんだん彼の言ってることが分かってきて、このテイクが当選確実になったんですけど。


「とまどうペリカン」

どうしても入れたかった曲で、一番難航した曲でした。最初、僕は「この曲、アマゾンの感じでやろう」って言って、みんなの目が点になった。まあ、ともかく本人がいってるのだからってことで、周りもその意見に添うしかないって、SEやら何やらいろいろやったけど、結局完成しなかった。それなら一旦そのアイデアを離れて、弾き語りかなにかであっさりやっちゃおうって言ったけどそれも最終的に駄目。いよいよレコーディングも最後ぐらいになってきたけど、僕の中にある「この曲をどうしても収録したい!」という思いは変わらなかった。それで僕がね、「アマゾンは言い過ぎた。アルゼンチンのブエノスアイレスの小さなクラブで演奏しているバンドというのはどうだ?」って言ったら、佐藤準が苦労して、そういうピアノを弾いてくれた。ところが、それでも上手く行かなかった曲なんです。いよいよ最後になって困り果ててね、「じゃあ、アマゾンで録ったヤツとブエノスアイレスで録ったヤツを合体させたらどうか」って。もちろんみんなは、この頃になると「それ、いいね!」では決してなくて、「なんだか知らないけど、やってみますよ」って感じになってた。ミキシングを吉田保さんがやってくれたんですけど、そうやって二転三転した曲なんですよ。